第38回法心理・司法臨床セミナーレポート <現在作成中です> 【演題名】 「韓国性暴力相談所が果たしてきた役割 ―司法・政府機関・大学・研究者等との連携・協働を中心に」 【講師】 イ・ミギョン 이미경さん(韓国性暴力相談所所長) 第37回法心理・司法臨床セミナーレポート <現在作成中です> 【演題】障がいのある犯罪をした人の地域生活のためのアセスメントと支援計画のあり方 【講師】Matt Frize氏 臨床心理・司法福祉ケースワーカー・博士 オーストラリア・ニューサウスウェールズ州地域司法プログラム責任者 第36回法心理・司法臨床セミナーレポート <現在作成中です> 第34回法心理・司法臨床セミナーレポート
「イノセンス・プロジェクトと科学捜査」をテーマに、アメリカにおけるイノセンス・プロジェクトの実際と、当プロジェクトの要となる科学捜査に関して、日本の実態について報告がなされました。イノセンス・プロジェクトは冤罪被害者の救済のために、無報酬でその事実調査を行う団体です。日本におけるイノセンス・プロジェクトの発足を目指すにあたり、このテーマにもなっている重要な2つの点に関して、それぞれの現場における経験に基づいて報告いただきました。 まず笹倉先生より、イノセンス・プロジェクトとはどのようなものかについて、実際に先生が活動された経験と、アメリカにおけるイノセンス・プロジェクトの概要についてお話をいただきました。アメリカでは個々のプロジェクトがそれぞれ独立した組織となっており,「イノセンス・ネットワーク」によって繋がりを持っています。対象となる事件は犯罪性・犯人性を争う事件のみとなっています。活動資金は寄付や政府からの補助があり,情報開示の制度も充実しているとのことです。このような点に関して日本版イノセンス・プロジェクト創設にあたって,受刑者へのアクセスや事件資料の入手,証拠開示など制度的な問題や,場所・資金源の問題が指摘されました。 次に平岡先生より「科学捜査の現状と課題」についてご報告いただきました。裁判において科学的な鑑定手法は,決定的証拠として大きな役割を果たしてきました。しかし,科学鑑定にも欠点があります。例えばDNA型鑑定は,検出率が高く事件解決にあたって有力な手段とされていますが,その他の鑑定では方法が統一されていないケースがあるということが挙げられます。グラフや資料を取り違える,データ入力のミスなどのヒューマンエラーも懸念されており,特にDNA型鑑定のような検出率の高い手法においては,コンタミの影響により冤罪へとつながる可能性が指摘されました。アメリカでは無罪のためにDNA型鑑定が用いられている一方で,日本では冤罪の原因となることがあるというところから,日本における科学的証拠のあり方について見直しが求められるという指摘がされました。 今後,日本版イノセンス・プロジェクトを実施するにあたっては,受刑者へアクセスする手段の整備,またプロジェクトが科学的証拠の鑑定ができる方法を整備する必要があると思われます。今回、多くの参加者や様々なマスメディアの取材も多く、日本でイノセンス・プロジェクトが嘱望されることを感じるセミナーとなりました。 (文責:小坂祐貴・中田友貴,立命館大学大学院文学研究科) 第33回法心理・司法臨床セミナーレポート
松本克美(立命館大学法務研究科・教授/法心理・司法臨床センター被害者支援・グループリーダー) 2 美白被害訴訟を契機として 木戸彩恵(立命館大学グローバル研究機構・専門研究員)
「損害論への法心理学的アプローチのために」と題して、カネボウ美白化粧品白斑問題に対する報告がなされました。カネボウ白斑問題は2013年に発覚し、現在、日本全国で損害請求訴訟がなされています。この問題に対して損害論の観点から法心理学的アプローチの可能性について法学・心理学のそれぞれの観点から報告がされました。 まず松本先生によって、「損害」についての法学的な問題点について報告が行われました。白斑問題において、製造物責任法(通称、PL法)を根拠に提訴されています。そして損害賠償においては製品の欠陥によって、生命・身体・財産の侵害が生じたという事実的な因果関係を証明します。そして生じた損害から損害額の算定が行われます。その中で精神的な被害も慰謝料という形で金銭に換算されます。その際に損害賠償の範囲や損害を金銭的に算定する方法について問題があります。そこでこの問題では心理学には、客観的な根拠付けを行い、損害の算定に寄与するという可能性が示されました。また つぎに木戸研究員によって心理学観点から白斑問題について報告がありました。化粧は理想の自分に近づける行為であるとされています。白斑問題では、他者に見える部位に器質的な変化を生じさせているため、自己イメージの低下や対人関係上の困難を生じさせるものであり、身体的な損害というよりも心理・社会的な損害であることと主張されました。また先行研究から、日本では特に外見に対する意識が強く、容貌の問題が精神的健康に及ぼす影響が強いことを示されました。その上で今後の研究の方向性を示されました。 報告終了後には、白斑被害は交通事故などの損傷と異なり、外見に現れた白斑の大きさからは必ずしも損害額が算定できないことや、受けた被害が今後悪化するのか、完治するのか医学的に解明されていないため損害の拡大・縮小が予見できず、時効の問題も今後争点化するおそれがあり得ることなどについて白熱した議論がなされました。
(文責: 立命館大学大学院文学研究科 中田友貴)
展示証拠に関する研究会(第32回法心理・司法臨床セミナー) レポート
※セミナーレポートは現在準備中です。
第31回 法心理・司法臨床セミナー レポート
※セミナーレポートは現在準備中です。
第30回 法心理・司法臨床セミナー レポート
※セミナーレポートは現在準備中です。
第29回 法心理・司法臨床セミナー レポート
※本セミナーは非公開セミナーです。
第28回 法心理・司法臨床セミナー レポート
※セミナーレポートは現在準備中です。
第27回 法心理・司法臨床セミナー レポート
※セミナーレポートは現在準備中です。
第26回 法心理・司法臨床セミナー レポート
第25回 「法心理・司法臨床セミナー」
上記講師およびコメンテータの3名は、2014年3月に、は、ソウルの梨花女子大学法学専門大学院ジェンダー法クリニック、ヘバラギ児童センター、ソウル家庭暴力相談所チョング支部の訪問調査を行いました。性暴力、DV、児童虐待などの被害者支援に大学やNPOがどのように寄与し得るか、法と心理の連携はどのように行われているかという観点からのヒアリング調査の報告をいただきました。 第24回 法心理・司法臨床セミナー レポート 第24回法心理・司法臨床セミナーは、女性ライフサイクル研究所の西順子先生をお招きして行われました。
タイトル:DV・性暴力被害者への支援―病院・心理士としての活動から
(共催)インクルーシブ社会に向けた支援の<学=実>連環型研究
レポートは現在作成中です。
第23回 法心理・司法臨床セミナー レポート
今回は岡田悦典先生(南山大学 法学部)による,「アメリカ証拠法におけるComputer Generated
Animationの法理」についての講演が行われました。本センターでは斎藤氏(センター・研究員)が開発した,KACHINA CUBEシステム(KC)を裁判において利用しようとする試みが山田氏(日本学術振興会/立命館大学大学院文学研究科心理学専修)によりなされていますが,実際に裁判において使い場合どのように扱われるのか証拠法から観点で説明がなされました。
KCが実際に法廷で用いられる際には展示証拠(Demonstractive Evidence)として扱われます。展示証拠は,絵や図を用いて示すことなどであり,日本では特に議論がなく用いられていますが,アメリカにおいては1940年代から議論がなされています。とくにJ.H.Wigmoreは「言葉によらない証言」と初めて展示証拠を位置付けましたが,例示的な証拠と実質的な証拠の区別ができていないと批判があります。またM.McCormickは展示証拠を実質証拠(substantive evidence)を陪審に理解しやすくさせるための例示的な証拠であると主張しました。今日ではM.McCormicknoの主張が一般的な理解とされていると説明されました。 またKCを法廷で扱う場合,Computer Generated Animation(以下,CGA)となります。アメリカではここ10数年でCGAが裁判で使用されることが増えましたが,CGA自身が何なのか,また何を示すための道具であるのかで取り扱いが変化します。E. J. ImwinkelriedはCGAは例示的な証拠か実質証拠で扱われる可能性を示しています。例示的な証拠であれば,証人の描写を例示するために,純粋な展示証拠として提供されます。この場合,事実のようにCGAを扱わないように説示が行われ,評議室に持ち込むことが許されていません。実質的な証拠であれば,科学的原理の有効性とデータの信頼価値を示さなければなりません。この場合,異議が出されやすく,また広範かつ特別の開示請求権(discovery right)を認めている法域が多くあるということが示されました。 CGAのような証拠は,陪審員により影響力があることを示す研究があり議論になっています。またCGAに関する証拠の保存,開示,事前告知など手続き的整備も問題になっています。日本においては未だ証拠法上のルールはアメリカのように十分に議論がなされていない現状があります。このためKCを裁判で用いる際,CGAに関する日本での取り扱いは比較的寛容に利用できる可能性が示唆されました。しかしKCが今後どのような形式の証拠となるのか,またどのような意味を付与されていくのかという提議で講演は締めくくられました。講演終了後,日本における証拠の取り扱いや今後の課題などに関して議論が展開されました。 第22回 法心理・司法臨床セミナー レポート
今回は,金成恩氏(当研究センター・専門研究員)による「DV・性暴力被害者のための統合支援センターの現在 -ソウル調査報告-」に関する報告が行われました。今回の報告は昨年2013年8月のソウルへの調査訪問の際の成果報告でした。 まず今回の調査訪問の目的として家庭内暴力(Domestic Violence;DV)や性暴力被害者支援が韓国と比較し,日本の体制が遅れているという現状があります。現在,国際的な男女平等の推進という潮流があり,女性に対する暴力の排除が目指されています。日本でもDV防止法やストーカー規制法が整備されていますが,性暴力に関連する法律は存在していません。これに対して韓国では,DVや性暴力犯罪に関する加害者への法規制だけでなく,DVや性暴力に関する被害者を保護することを目的にした法律があり,被害者支援の法的根拠が整えられています。また、全国的にDV相談所(全国に228ヶ所),性暴力相談所(165ヶ所)が整備されています。さらに,被害者支援のためのONE STOPサービスを目指し,統合的な支援が行われているONE-STOP センターが15ヵ所,ヘバラギセンターが7カ所整備されています。 今回の報告では,特に金氏が視察を行った,病院内に設置されているソウル・ヘバラギ女性・児童センターとソウル・女性・学校暴力ONE-STOPセンターについて報告がなされました。両施設では性暴力やDVなどの緊急的な対処を365日24時間行っており,また二次的な被害の防止のために一時保護を行っています。さらに臨床心理士・医師・相談員・弁護士・行政職員がチームとなり,対応を検討し,行っています。また裁判に向けた支援,治療・長期的な支援の取り組みなども行っていることが紹介されました。 しかし韓国での取り組みにおいても,裁判における被害者陳述の精神的負担のような法的な問題や施設の資金不足などの問題も指摘されました。そのうえで日本のDVや性被害への被害者支援システムや当センターを今後どのようにしていくべきか提言されました。報告終了後には,日本の現状や韓国のシステムに関する具体的な質疑応答,また日本で同様の支援を行っているSACHICO 性暴力救援センター・大阪の紹介が行われました。
第21回 法心理・司法臨床セミナー レポート
今回は、城山英明先生(東京大学公共政策大学院教授)をお招きして、「ステークホルダー分析とその展開」について報告を行って頂きました。 ステークホルダー(利害関係者)分析は、政策決定などのコンセンサス・ビルディング(合意形成)の一環として対話に参加すべきステークホルダーやその利益・関心を特定する手法で、コンセンサス・ビルディングに向けた事前準備として実施されます。特に見落とされがちなステークホルダーやその利益、顕在化しない利益に対応するために行う必要があります。 具体的には、利害関係がありそうな人物を対象にインタビューを行い、芋づる式に対象者を拡大していきます。最後の意思決定はステークホルダー分析によって決まるわけではなく、どのステークホルダーのどの意見に重みづけを行うかが問題になります。 城山先生は、A地区のまちづくりの際に行ったステークホルダー分析を例示されました。分析によってA地区における問題が顕在化し、その後の論点が焦点化される可能性が示されました。 また、ステークホルダー分析をより詳細に行う方法として問題構造化手法を紹介され、B地区のLRT(ライトレールトランジット)導入に関する問題構造化についても報告されました。こちらでは認知マップを用いて各ステークホルダーの問題意識を構造化し、それぞれが期待することや課題が明らかになったことが示されました。 城山先生の報告終了後、斎藤進也氏(当センター・専門研究員)と上村晃弘氏(当センター・補助研究員)が報告を行い、行政政策に関する情報の扱いに関する議論がなされました。
第20回 法心理・司法臨床セミナー レポート
※本セミナーはクローズドのセミナーのため,内容は非公開にさせて頂きます。
第19回 法心理・司法臨床セミナー レポート
第18回 法心理・司法臨床セミナー レポート
※本セミナーはクローズドのセミナーのため,内容は非公開にさせて頂きます。 第17回 法心理・司法臨床セミナー レポート
第17回法心理・司法臨床セミナーには、当センター拠点研究員であり、立命館大学産業社会学部教授の中村正先生にお越しいただきました。中村先生は、少年刑務所での性犯罪処遇、児童相談所の家族再統合事業、DVの加害男性/体罰教師への更生面談、ハラスメント加害者への対応や、高齢者虐待の養護者支援といった、広範囲に渡る加害紗臨床の経験から、この問題の解決(issue-based)には、社会臨床論・臨床社会学・社会病理学等の学範間のトランス(融合)的協働が不可欠であると問題提起されました。これには当センターで行われている法と心理学の学範間連携(学融)も当然含まれるものと考えられます。このような融合が必要とされる1つの社会的背景として、加害者処遇の問題があります。中村先生の基本的な視点は、加害が起こることで、被害者だけでなく、その周囲にある人間関係全体が傷つく―つまり、コミュニティが傷つくというものです。このコミュニティの崩壊は、法の守備範囲が拡がっているものの、法曹だけでは全体の回復に対して対応できないものであると指摘されています。よって傷ついたコミュニティの関係回復・修復のための司法の仕組みとそのメソッドが必要となります。 この司法のあり方として、中村先生はご自身の体験談として、サンフランシスコの裁判所が赤ん坊を抱いた黒人の母親を見守るような裁判のあり方について取りあげながら、治療的司法 therapeutic jurisprudence や、therapeuticコミュニティ(自助グループ)の必要性をご報告されました。またこのような実際を担う自立支援が可能な臨床心理士の必要性と社会認識の変化の必要性なども同時に指摘されています。 そしてこういった司法のあり方に対応する臨床(臨人・臨他・臨場)実践と研究の報告として、男親塾の活動について報告されました。男親塾 とは、「虐待加害者である父親のハーフ・ウェイ・ハウス的なもの」と中村先生はおっしゃられます。この実践は、虐待加害者の父親達に対しグループワークや個人面談を行い、最終的には家に帰すことを目的としながらプランニングされた活動です。この場では「とりあえず稼ぐ」「酒を飲まない」というような、男親が実現可能なステップを目標設定しながらも、本人主導的な形で行う自助グループ活動となっています。 こういった活動の背景には、「児童相談所の福祉ポリス化」と指摘されるような、本来の福祉的な視点から逸れた行政実態があります。この動向に対し「よくやってるねと言ってあげる」ことの加害者臨床における重要性を中村先生は指摘されています。さらに、加害を行った人として、その行為に至った背景などを社会に汲み取られることのないまま、恨みをもったまま何の保護も受けないことで、恨み等を積み重ねていくこと(ドリフターズ)の危険性も指摘されています。少なくとも自助グループなり集団セラピーなどを可能なかぎり継続的に介入していくことが必要であり、そして子どもが18歳になり自立して、男親が会いたいと思うことが重要であるという視座を提供され、本報告をまとめられました。 法心理・司法臨床センターの活動として、このような実践活動、またその後方支援としての理論やプログラム構築が求められると思われます。
第16回 法心理・司法臨床セミナー レポート
第15回 法心理・司法臨床セミナー レポート
今回はサトウタツヤ先生(立命館大学文学部・教授)による「日野町事件における”知人の目撃証言”について」の研究報告が行われました。日野町事件とは1984年に発生した強盗殺人事件であり、冤罪事件であると疑われています。
過去の目撃証言研究では、目撃証言は信頼できないことが示されています。しかし既知の人物の目撃証言では、裁判において信頼できるという経験則があります。しかし他の目撃証言同様、信頼できない可能性があります。そこで既知の人物の目撃証言が証拠となった日野町事件に関する法心理学的研究を行った2つの研究の紹介がなされました。
まず日野町事件の事例分析が紹介されました。日野町事件で重要となる目撃証言は、証言時期が事件から4か月後、また車での夜間走行中の一瞬のものでありました。裁判所は経験則により精度の高いものと判断しましたが、心理学的知見からすると正確性は非常に疑問視されるものです。裁判所の判断は心理学的知見を無視したものであるとサトウタツヤ先生は批判されました。
さらに既知の人物の目撃の精度が高いかを検討するために、社会心理学的に最小既知条件として設定し、実験を行いました。その結果、知人ではないのにもかかわらず、知人とした場合、確信度が高くなりました。よって証人の確信度は識別の正確性とは連動していないことが示されました。発表終了後、日本の司法制度や目撃証言に関して意見が交わされました。
関連HP 滋賀報知新聞 第14回 法心理・司法臨床セミナー レポート
※セミナーレポートは現在準備中です。
第13回 法心理・司法臨床セミナー レポート
※セミナーレポートは現在準備中です。
第12回 法心理・司法臨床セミナー レポート
今回は石塚伸一先生(龍谷大学法務研究科 法務研究科長・教授,右上)をお招きして「日本版ドラッグ・コートの可能性とその限界―ハーム・リダクション・アプローチによる新たなる挑戦―」について報告を行って頂きました。覚せい剤は、日本において誕生し、戦中にはヒロポン等として市販されていました。その後、覚せい剤は薬物乱用、薬物依存、慢性中毒を引き起こすことから刑罰の対象とされました。 薬物依存からの回復に関する従来のスタイルは底着き体験まで行き、何回かのステップで再使用を繰り返しながらも回復を目指すものでしたが、最近は底着きまでの段階で回復を目指すようになってきています。しかし生理学的に回復は不可能なのかもしれないと先生はご指摘されました。 現在、覚せい剤等の薬物使用に関する刑事司法の処理は画一化されており、判決は事務的に処理されています。刑務所に服役したとしても、より依存し出所してきます。薬物乱用者に対して放任的な厳罰を科す政策は、国内外で失敗例が示されています。また薬物使用者に対する資源投入は司法や医療に大部分が割かれ、福祉にほとんど割かれておらず、アンバランスな状態にあります。福祉にほとんど力が入れられていないことが、薬物使用者の社会の受け皿がない状態にし、再使用へとつながることを指摘されました。そこでアメリカのドラッグ・コートでなされている、薬物使用者に対して処罰ではなく、治療を行う裁判制度が提言されました。 石塚先生は、日本に「ドラッグ・コート」を導入するには、特に立法措置を必要とせず、ガイドラインを作成することで可能であることが説明されました。しかしそのためには薬物の再使用が回復に必要なプロセスの1つであることを認めることであると主張されました。ドラッグ・コートそして自助グループでのプログラムを参加すれば、公訴しない、もしくは公判段階において保護観察付執行猶予とする、収容後仮釈放を行うなどの具体案を提示されました。さらにドラッグ・コートを踏まえ、薬物使用から発生する健康被害を予防や軽減を目指すハーレム・リダクションを導入しようとしていることを報告されました。報告終了後、薬物やドラッグ・コートの限界性と理念性について質疑応答がなされました。
第11回 法心理・司法臨床セミナー レポート
今回は浅田和茂先生(立命館大学法務研究科・教授)により「裁判員裁判と鑑定について」について報告が行われました。 本報告では、まず裁判員制度について裁判員法の各条項について説明がなされ、成立背景、そして実際の裁判員裁判運営上の問題点が説明されました。裁判員制度成立までの議論には陪審制か参審制かの議論があったことが知られています。浅田先生はこの点に関して「事実認定の要は常識」であると指摘され、よって手続き二分論に基づき、市民判断は事実認定の部分に用いられ、量刑は別にするべきであると主張されました。量刑判断は、従前の裁判官裁判において裁判官の裁量の幅を広くしようとしたことから、他国と比較しても日本の犯罪類型は包括的で法定刑の幅が広いという実態(たとえば、殺人事件の刑の長さは「死刑又は無期5年以上」と幅広い)があります。よって量刑の決定は様々な要素を考慮した複雑な判断になりやすく「健全な市民による不健全な量刑判断」になる可能性が問題視されました。また市民のなかに厳罰化意識がある点(少年犯罪に対して少年法への理解がないなど)にも懸念が示されました。 次に裁判員制度における鑑定について説明がなされました。鑑定と一口に言っても、血液、毛髪、DNAなどの理学鑑定、死因、血痕などの法医学鑑定、責任能力などの精神医学鑑定、ポリグラフ、目撃証言などの心理学鑑定、文章鑑定、犯罪鑑識などに分かれていることが示されました。これらは1)原理が確立していて結果に異議の余地がない領域、2)鑑定人の主観的判断に依存度が大きい領域、3)原理自体に問題があり決定的な証拠にはなりえない領域に大別できるとされます。そこでそれぞれの鑑定の信頼性や鑑定対象となる資料の採取・保管などの問題点について指摘がなされました。 報告終了後、手続き二分論や陪審制、証拠の信頼性について議論が交わされました。裁判員裁判、鑑定共に当センターで扱っている領域ではありますが、なかなか司法実務の実態、他国制度との比較の中で制度論的意味を知る機会は少なく、本報告を拝聴させていただけたことは非常に勉強になりました。
第10回 法心理・司法臨床セミナー レポート
今回は田篭亮博弁護士(右上,北九州第一法律事務所)から「まだ終わらないカネミ油症事件(カネミ油症新認定訴訟)」について報告が行われました。カネミ油症事件とは、1968年に北九州を中心とした西日本でカネミ社製の米ぬか油を摂取した人達に一斉に中毒症状・障害が発生した事件です。原因は同社の米ぬか油に、作業工程中に混入したPCB(ポリ塩化ビフェニル)及びダイオキシン類に因ることが特定されています。また、このカネミ油症事件は、世界的に見ても大規模・高濃度のダイオキシン・PCB中毒事件です。 油症の特徴としては、急性症状と残留性症状の二つがあります。急性の場合はPCB接種後に皮膚や肝障害に症状が現れますが、残留性の場合は「全身病のデパート」と呼ばれるほどさまざまな症状が現れます。とくに残留性の症状は油症ではない場合にも発症する症状が多く、よって油症が原因か否か判断できないという実態があります。さらにPCBの体内半減期は40年と長く、油症患者は一生涯この病と向きあわなければなりません。また遺伝性もあることから長期間にわたり当事者に様々な困難を生じさせてきました。 カネミ油症の訴訟は45年以上たった現在も継続されており、田篭弁護士によれば、これまでにカネミ油症の認定基準が医学の進歩とともに三回改訂されていますが、初期の診断基準により早期に油症と認定された被害者は裁判をして一定額の一時金を受け取ることができていますが、認定基準の改定により新たに認定された被害者は、一時金を受けとることができていないことも一つの問題であることが指摘されました。さらに、現在問題となっているのは、民法724条に記載されている損害賠償請求権の除斥期間が,油症のような発症メカニズムが不明確な症例において適切ではないということです。 ご報告終了後には、これらの問題に関して当センター研究員を交え、被害者への救済措置や被害者認定の問題、また除斥期間の問題について意見が交わされました。
第9回 法心理・司法臨床セミナー レポート
今回は森久智江先生(立命館大学法学部・准教授:当センター研究員,上右)により「Restorative Justice(修復的司法:以下RJ)の理念とその実践の動向」について報告が行われました。RJは日本において矯正や保護におけるプログラムとして、実践面での導入が注目されています。しかし、本来これはRJの狭義的理解であり、本報告ではRJの根本的理念からその実践まで幅広く説明が行われました。 RJの理念はH. Zehrにより、従来の応報的司法の司法手続きに対する概念として提唱され、1990年代以降世界的に注目を集めてきました。RJは犯罪を社会における人間関係の侵害ととらえ、侵害の影響や当事者のすべてのニーズが関係者に受け止められ、当事者が主体的に生きようとするうえで、侵害の影響を調和させる支援を関係者が自律的に行うことを目指すことに特徴があります。 またRJの実践的側面に関しては、理念をより重視するプログラムと「害の修復」を中心とする広い解釈のプログラムの2種類があることが指摘されました。RJを実践するにあたっては、行為者の権利が保障されない問題やネットワイドニングが生じる可能性についての批判などがあります。しかし本報告ではプログラムの実現可否よりも、RJの考え方が現状の司法制度、社会制度にとってどのような意味を持つかを考えることの重要性が主張されました。 最後に日本におけるRJの現状として、従前より行われてきた公的もしくはコミュニティ主導のRJプログラムの取り組みや、官民協働刑務所・島根あさひ社会復帰促進センターで新たに始まった「治療共同体(Therapeutic Community)」の取り組みが紹介されました。講演後は、国内外でのRJプログラムの取り組みや、修復的司法の理念と近接領域との関係について等に関する論議が行われました。
第8回 法心理・司法臨床セミナー レポート
今回は金成恩氏(当研究センター・専門研究員,写真左)により「韓国におけるDV・性暴力被害者に対する支援体系」についての研究報告が行われました。 韓国では儒教的イデオロギーにより、永きに渡り男尊女卑の考え方が広く文化的に浸透していましたが、1987年の民主化宣言以降、女性運動の流れが活発化し、家庭内暴力(DV)や性暴力事件に社会的関心が集まった結果、家庭暴力特別法・家庭暴力防止法や性暴力特例法・性暴力防止法などの法律が制定されてきたという背景がまず述べられました。 近年日本でもDV・性暴力の問題からその政策対応に議論は及んでいますが、2013年4月に日弁連が提出した「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの設置に関する意見書」では、韓国との比較を通して関係機関の絶対数や対処の不十分さが指摘されています。このことから同問題に対する韓国の先進性には学ぶところが多いと思われました。 韓国ではDVや性暴力の発生予防、加害者への制裁、そして被害者の保護・支援という三つの局面に対応した施策が現在展開されています。具体的には①家庭暴力相談所、②性暴力相談所、③女性緊急電話、④女性・学校暴力One-Stop支援センター、⑤ヘバラギ女性・児童センターという形で支援体制が存在しています。また本報告では韓国の各機関の統計資料から支援体制の被害者のニーズと対応の課題について報告がなされました。 発表終了後には、司法矯正や予防的な観点からの若年者への教育、また日本への施策の導入に関して熱論が交わされました。
第7回 法心理・司法臨床研究会 レポート
今回は三柴丈典先生(近畿大学法学部,写真左)から「職場のメンタルヘルスと法~産業精神保健法学の構想~」について報告が行われました。
先生の研究背景として、まず職場とメンタルヘルスに関わる日本の2つの判例が提示され、メンタルヘルス問題が重要な法的検討課題であることに加え、経営・人事労務管理、医療、心理、福祉などの専門分野による総合的なアプローチが必要な現場的な課題であることが説明されました。そもそもうつ病などの精神疾患は、その性質から、国内外ともに臨床事例の傾向分析による蓋然性によって把握されている実態があり、よって就労状況とメンタルヘルスの因果関係が問題となるような事例ではこの蓋然性が争われるケースがあります。先生は、このような事例に対し手続き的理性(合理的な手続の設定と公正な運用)に則った対応を図る必要があることを論じられています。 メンタルヘルスの定義は各国・各機関で様々にあるわけですが、先生は「社会・経済構造、自然環境や生活スタイル等の大きな変化の中で、個人と組織の成長と適応を実践、支援する作用」と定義し、これを「『ヤドカリの引っ越し』の実践と支援」と例えられています。そのうえで法により行える支援は「切り分け」であり、精神疾患の蓋然性を踏まえつつ、1)本人要因その他業務外の事由か業務上の事由か、2)軽度の疾病障害か重度の疾病障害(労働能力があるかない)かの2次元によって分けることが提案されました。そして、これらの場合分けに応じて一次予防(個々の労働者の認知・行動変容や職場環境整備)、二次予防(早期発見・早期介入)、三次予防(休・復職を認める対応)の観点で対処する必要があるとのことでした。また、これまで、それに基づく非違行為について、裁判所が法的に救済して来なかった要因として、パーソナリティ(人格・性格の偏り)を第三次元として捉え対応する必要も指摘されています。 報告終了後、精神疾患やメンタルヘルスについての多種多様な現場課題や法の役割について質疑応答が行われました。前回までは刑事事件を中心とした研究報告でしたが、今回は産業(精神)保健と法の関係に関する報告ということもあり、法と心理に関わる領域の潜在的な広さを感じる機会でした。
第6回 法心理・司法臨床研究会 レポート 発表者:徳永 留美氏(当センター専門研究員)内容:知覚的距離による物体表面の色恒常性
時 間: 16時~18時(ご発表30分~1時間、質疑応答1時間くらい)
場所: 立命館大学朱雀キャンパス307教室
今回は徳永留美氏(当センター専門研究員、写真左)による「知覚的距離による物体表面の色恒常性」についての研究報告が行われました。
まず、人の知覚の恒常性について、具体的な例示を踏まえた研究事例が2つ報告されました。とくに色知覚の事例から、人の色知覚は物理的な色の測定結果とは異なっているということを説明されました。人の知覚と物理的実際との差異は、司法の場における「証言の正確さ」とは何かという議論に繋がっていきます。 近年、アメリカをはじめ日本においても目撃証言を適切に解釈する為の試みがあります。とくに法心理学の分野では既に誤った目撃証言によって冤罪事件が生まれていることはよく知られています。この目撃証言の問題は記憶研究の遡上で扱われることが多いのですが、本報告では目撃証言の議論をさらに視知覚領域―視環境の変化に伴う視認性の変化としての目撃証言を検討する試み―への展開可能性についても展望が述べられました(写真中央)。例えば、暗い場所と明るい場所での色の見え方が異なる場合や、普段眼鏡をかけている人が、裸眼の状態で事件に遭遇した場合など、実際に目撃者の目撃時の物理環境の特性とその時点での知覚との関係を明らかにし、証言の正確性を測定・吟味することの可能について議論がされました(写真右)。 そのうえで実際の裁判で目撃証言を取り扱う上での問題点や目撃証言を客観的に評価できるシステム作成、人の視覚とその研究などについての活発な議論が展開されました。
第5回 法心理・司法臨床研究会 レポート 発表者:山田早紀氏(日本学術振興会/立命館大学大学院文学研究科心理学専修)内容: 刑事裁判における 供述調書の理解を促進するツールの検討;供述分析の視覚化
時 間: 16時~18時(ご発表30分~1時間、質疑応答1時間くらい)
場所: 立命館大学朱雀キャンパス307教室
今回は山田早紀氏(日本学術振興会/立命館大学大学院文学研究科、左)から、前回報告者の斎藤進也氏が開発したKACHINA CUBE System(KCシステム)を法心理分野において用いた一例として、「刑事裁判における 供述調書の理解を促進するツールの検討;供述分析の視覚化」について研究報告が行われました(写真左)。 平成21年度~24年度にかけて行われた裁判員制度に関する最高裁の調査によれば、裁判員経験者に対する参加した裁判での審理のわかりにくさに関するアンケートから、法曹三者の中で弁護側の説明が突出してわかりにくい現状があることが指摘されています。これには日本の証拠開示(展示)の不均衡さなどによって弁護側が扱える情報の量、また検察が組織であるのに対し弁護側は個人で弁護にあたる点などの問題が背景にあるためです。この不公正に対し弁護側の法廷での説明力の向上を図るような研究が必要であることが指摘されました。 そこで山田氏は、自白の信用性を巡り供述調書の内容を問題にするケースに対してKCシステムを理解支援ツールとして用いました(KTH CUBE システム)。KTH CUBEシステムでは、立方体の中に、争点となる部分の供述を弁護側ストーリーと検察官ストーリーに分け、これを供述がとられた時間順に蓄積することで、供述の内容の変遷を視覚化することができます(写真右下)。 今回は、同手法を用いた3つの事例が報告されました。各事例より、検察側、弁護側のストーリーの乖離点が明確となること、また供述の変遷や前後関係が視角的理解の促進になること、さらに新たな分析の視点を生むことなどの特徴がありました。またプレゼンテーションツールや思考促進ツールとしてKTH CUBE システムの有効性についても報告がされました。 報告終了後、司法自体の問題点、またKTH CUBE システムの提示の効果、またその恣意性などによるバイアスを生む可能性からガイドラインや方法論の必要性などについて議論が行われました。
第4回 法心理・司法臨床研究会 レポート 発表者: 斎藤進也氏(法心理・司法臨床センター 専門研究員)
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